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【コラム】碓氷線、旅の残滓

碓氷線、旅の残滓

 

「・・・危険ですから窓から物を投げないようご注意ください」

 

 碓氷線を歩いていると、沿線に随分と古いゴミが落ちていることに気が付きます。

 車窓からのポイ捨ては大変危険な行為であり、ほめられたことではありませんが、廃線跡に落ちているゴミたちは往年の繁栄を偲ばせる貴重な生き証人といえなくもありません。

 

釜めしの釜、汽車土瓶

 通称、瀬戸物墓場と呼んでいる線路横の山すそ。

 そこには碍子などの鉄道設備の廃品や汽車土瓶など、陶磁器が沢山捨ててあります。

 はたして車内から直接捨てられたものなのか、それとも保線などの作業時に回収したものをまとめて投棄したのか、原因は分かりませんが、この辺りに特に多く見受けられます。

 そんな中よく見てみると土瓶の一部は高崎駅の駅弁屋たかべんさんのものだったり、釜はおぎのやさんの旧型(文字の彫りこみが無い)なのかはたまた別のお店のものか。

 何にせよ持ち重りがするこれらを持って帰ったりくず入れに捨てるのを億劫がって窓から投げ捨てた人がいたようで、危ない危ない・・・

 

ポリ茶瓶

 さて、そんな重くてこぼれやすい土瓶に替わって昭和の30年代頃からでしょうか、軽くて口の閉まるポリ茶瓶が登場しました。

 ペットボトルが登場するまで汽車旅の飲み物容器として大活躍したこのポリ茶ビンも、ご他聞に漏れず捨てられていました。何処にあったかと云うとこれがトンネルの中。軽いからと気楽にトンネルの中で捨てられたのか、外で捨てたものが風に転がされてこんなところまで来てしまったのか。へしゃげてはいるものの、朽ちることの無い材質ゆえ今後も暗闇の中に転がり続けるのかもしれません。

 

空き缶

 沿線の右を向いても左を向いても、そこここに転がっている空き缶、空き缶、空き缶・・・

 碓氷線に最大勢力を誇る空き缶、一つ一つを見てみると懐かしいデザインのものが沢山有って時代時代を感じさせます。幾つか例をあげてみましょう。

 このジョージアの缶は昭和50年の発売当初からのデザインなんですが、横川フリークの方は見たことがあるんじゃないでしょうか?そう、東京屋旅館さんの丁字路のあたりにある古い自動販売機に見本が入っています。もしかするとここで買ったのかも?
 次にアサヒ生ビール、こちらは昭和61年の発売「コクがあるのにキレがある」のキャッチコピーを覚えている方もあるのではないでしょうか。今も昔も汽車酒は大人の旅の醍醐味ですが、ポイ捨てと呑み過ぎにはご注意を。

 古い物はスチール缶も多く、錆が進んで分かりづらいものもありますが、このように思い出のデザインに出会えることもあるかもしれません。

 

カメラ

 最後に紹介するのはコンパクトカメラ、キヤノン オートボーイ3です。昭和61年に発売されたこのカメラは、私も愛用していた先代のオートボーイ2に比べて曲線を多用したデザインで、グッドデザイン賞他数々の賞を受賞した名品でした。

 ひっくり返してみると裏蓋がちぎれて無くなっていました。もしかすると車窓を撮ろうと窓の外に出していたら、トンネル風で吹き飛ばされ、壁にぶつかって壊れたのかもしれません。落とし主はさぞやガッカリしただろうと、想像されます。

 

 あまり良い事でもありませんが、まだまだ、この他にも様々な物が落ちています。廃線ウォークのつれづれに観察して往時を偲ぶのも、またひとつの楽しみ方ではないでしょうか。

 

 最後に昭和30年代、国鉄で実施された「旅の新生活運動」の車内放送を引用してお別れにしたいと思います。

 

「ただいま全国で旅の新生活運動が行われています。お互いに交通道徳を守って楽しい旅行をいたしましょう。タバコの吸いがらは吸いがら入れに、くずものはデッキのくず入れに捨て、お互いに気持ちのよい旅行をいたしましょう。」

 

 

山本留吉

一部の人からは駅長と呼ばれる。 カフヱー大正浪漫店主(開店休業)、大正時代を中心に戦前日本の情報を収集公開、鉄道関係の他雑多な趣味を中心にゆるゆる活動中。非実態系サークル チーム国鉄唯一の構成員。色々(デザイン、料理、布製品、社歌、その他)作る。コミケお疲れ様列車幹事。人造人間イレシンダー開発者。本業旅人、時々狐。